1人抄読部 兼 読書部

生命科学系の論文のサマリーを読んでいきます。また時々趣味の読書の感想も書いていきます。

【読書感想】紙の月

フリーテーマの読書会に参加した際に紹介されているのを聞いて、興味を持ち本を購入しました。ストーリーだけ端的に書くと、なんとなく満たされない普通の主婦が若い男に貢ぐため勤め先の銀行のお金に手を付け、ついには1億円を横領するという話。これだけ書くとただの救いようのない犯罪者のどうしようもない話のようだが、主人公の心情の描写がリアルで生々しくのめりこんでしまうようなストーリー展開でした。外回り中にふらりと寄り道し、化粧品を買おうとしたが支払いの瞬間に手持ちがないことに気づき、この時初めて銀行顧客のお金に手を付けてしまうのですが、その後すぐに自身のお金をATMからおろし、この時は何事もなかったかのように過ぎ去ります。このくらいなら自分もやってしまいそうだなと思えるリアルな描写であり、その後のどんどん金銭感覚が狂い横領にのめりこんでいく様もあり得ないと思いながらも、主人公の梨花に共感できる部分もあり、自分も一歩間違えば同じように転げ落ちて行ってしまうような不思議な臨場感があり怖くなりました。スリルと不思議な爽快感あふれる展開の後の読後感はあまりいいとはいえないものの、見事な心理描写・文章力であり良作だと思いました。2014年に公開された映画の方も評価が高いようで、こちらも見てみたいと思いました。